糖尿病治療薬

糖尿病治療薬

病態

高血糖の状態が慢性的に続くと、網膜症・腎症・神経障害といった2次障害や、心不全、脳卒中末梢動脈疾患(PAD)などの動脈硬化性疾患を引き起こす。

糖尿病で高血糖の状態が続くと血管の壁が傷つき、コレステロールが蓄積され動脈硬化の原因となる。

動脈硬化とは血管、特に動脈の壁が厚く硬くなる状態を指す。

血管は通常、弾力性があり、しなやかであるが、危険因子によって厚く硬くなる。

この変化を動脈硬化とよぶ。

https://doumyaku-c.jp/knowledge/

動脈硬化が進行すると、心不全脳卒中にいたる。

糖尿病の診断基準

早期空腹時血糖値(mg/dL)126以上随時血糖(mg/dL)200以上、75gOGTTで(mg/dL)200以上、HbA1c(%) 6.5以上で糖尿病と診断される。

糖尿病に於いては、血糖コントロールとともに、血圧や血中脂質のコントロールにも重要である。

インスリン依存性はⅠ型、DDMとも呼ばれ、糖尿病において膵臓からインスリンがほとんど分泌されず、注射でインスリンを補う治療が必要な状態を指す。

インスリン非依存性はⅡ型、NDDMとも呼ばれ、インスリンの分泌が残っていてインスリン療法を行わなくても、生命が維持できる状態を指す。

食事・運動療法

食事

糖尿病治療の基本となる。

①1日の総エネルギー摂取量(患者の体重に基づく)

②炭水化物、タンパク質、脂質のバランスをとる。

③適量のビタミン、ミネラルも接種できるようにする。

運動

有酸素運動、レジスタンス運動(筋肉に負荷をかける動きを繰り返し行う運動で、筋力トレーニングとも呼ばれる)があり、それらは血糖コントロールや危険因子を改善させる。

有酸素運動は中強度で週に150分かそれ以上、週に3回以上、運動をしない日が2日以上続かないように行う。

レジスタンス運動は連続しない日程で週2~3回を目安にする。

可能であれば有酸素運動、レジスタンス運動を組み合わせる事が効果的。

また、日常の生活活動を増加させるために、座位の時間を減らす工夫も必要。

糖尿病治療薬

薬剤の種類は作用別に

①ビグアナイド(BG)類

②チアゾリジン(TZD)誘導体・インスリン抵抗性改善

③スルホニル尿素(SU)類

④即効型インスリン分泌促進薬

⑤ミトコンドリア機能改善薬

⑥アルファグルコシダーゼ阻害薬

⑦SGLT2阻害薬

⑧インクレチン関連薬、配合剤  GLP-1、GIP/GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬

⑨インスリンアナログ製剤
がある。

 

①ビグアナイド(BG)類

ビグアナイド(BG)類は肝臓からの糖新生の抑制、末梢での糖取り込み促進、消化管からの糖吸収抑制作用により、血糖を降下させる。

糖新生とは、グルコース以外の物質から、グルコースを生成する経路。

グリコーゲンは、肝臓と筋肉に貯蔵されている

肝臓で合成されたグリコーゲンは、空腹時の血糖値を維持するために分解される。

筋肉で合成されたグリコーゲンは、運動時のエネルギー源として分解される。

グリコーゲン(グルコースが多数結合したもの)は必要に応じてグルコースに変換されるが、この流れを阻害する働きがある。

グリコーゲン→グルコース(ブドウ糖)を阻害

しかし、グリコーゲンからグルコース(ブドウ糖)への流れが阻害されると、乳酸の量が相対的に増し、乳酸アシドーシス(乳酸アシドーシスは、乳酸が体内に蓄積され、血液中のpHが過度に低くなる事を特徴とする病態)という危険な副作用に陥ることがある。

十分な注意が必要とされている。

2型糖尿病で食事、運動療法または加えてSU薬が効果不十分か、副作用などにより使用不適切な場合のみなどに使用される。

腎障害のある患者への投与は控える。

②チアゾリジン誘導体 ・インスリン抵抗性改善

インスリン抵抗性を改善。

チアゾリジン誘導体は脂肪細胞の転写因子PPARのアゴニストであり前駆脂肪細胞は脂肪細胞となり大型脂肪細胞はアポトーシス(細胞の消滅)を引き起こす。

結果、インスリン抵抗性を改善する。

インスリン抵抗性とは「インスリンの効き具合」を意味する。

膵臓からインスリンが血中に分泌されているにもかかわらず、標的臓器のインスリンに対する感受性が低下し、その作用が鈍くなっている状態を意味する。

インスリン抵抗性があると、筋や脂肪組織の糖取り込み能が低下し、肝臓では糖新生が抑えられなくなり、血糖値が下がりにくなる。

③スルホニル尿素(SU)類

SU類は、膵β細胞にあるSU受容体と結合しインスリンの分泌を起こす。

SU薬が適応となるのはインスリン分泌能力が残っている患者が対象となる。

1型糖尿病や膵疾患によりインスリン分泌能そのものが低下しているとSU剤は効果を発現しない。

2型糖尿病(食事療法・運動療法のみで十分な効果が得られない場合のみ)に使用される。

④即効型インスリン分泌促進薬

基本的な作用はSU剤と同じ。

即効型インスリン分泌促進薬はSU構造を持たないが、膵β細胞に働きSU類のようにインスリン分泌を促進。

インスリンは膵臓のランゲルハンスβ島から分泌されるが、そこでSU受容体に結合しATP依存性Kチャネルを抑えβ細胞の脱分極を促し結果、インスリン分泌を促す。

インスリン分泌までの時間が極めて早い。

⑤ミトコンドリア機能改善薬

膵臓や肝臓、骨格筋などのミトコンドリア機能を改善することで、血糖値を下げる作用がある。

肝臓での糖新生を抑制、骨格筋での糖の取り込みを改善させる。

膵臓でインスリンを分泌する細胞(膵β細胞)に働き、グルコース濃度に依存したインスリン分泌を行う。

ビグアナイド薬と作用機序の一部が共通している可能性がある。

⑥αーグルコシダーゼ阻害薬

二糖類分解酵素を阻害して単糖類への分解を抑制する。

食物中には血糖の上昇につながるα-グルコースが多数結合したアミロースやアミロペクチンが含まれるが、その結合は体内でα-グルコシダーゼという酵素によって加水分解をうけ血中にグルコース(ブドウ糖)が生成される。

しかし、αGIはこのα-グルコシダーゼを阻害することで血中グルコース濃度の上昇を抑える。

結果、血糖値の上昇が抑えられる。

糖尿病の食後過血糖の改善を目的とし、食事療法・運動療法のみで十分な効果が得られない場合に使用される。

⑦SGLT2阻害薬

SGLT2阻害薬は、腎臓の近位尿細管でグルコースやナトリウムの再吸収に関わるSGLT2(ナトリウム-グルコース共輸送体2)を阻害する薬剤。

腎臓におけるブドウ糖の再吸収を抑制する。

体重減少の効果も、期待出来る。

この効果が、腎臓の負担を減らし、腎保護作用をもたらすとされている。

体内の余分な水分と塩分を排出し、血圧を下げることで心臓への負担を軽減する。

その為、 SGLT2阻害薬の中には心不全、腎不全への効能、効果が追加されたものがある*。

⑧インクレチン関連薬

GLP-1、GIP/GLP-1受容体作動薬、DPP-4阻害薬がインクレチン関連薬に属する。

インクレチンはGLP-1とGIPであり、食事により小腸、大腸から分泌され、膵臓に作用するホルモン。

インクレチンはインスリン分泌促進、グルカゴン分泌抑制、胃内容放出の遅延、膨満感、食事摂取量の抑制の効果をもたらす。

DPP4阻害薬

インクレチン(GLP-1、GIP)を分解するのが、DPP4という酵素。

DPP4というインクレチンを分解する酵素を阻害し、インクレチン(GLP1、GIP)の働きを保つ。

⑨インスリン製剤

主に1型糖尿病(先天的なもの)や、周術期、妊娠期間中や授乳時の経口血糖降下薬が使用できない場合、ステロイドの使用でインスリン以外では対応が困難な場合、使用される。

現在ではペン型のものがあり、注射器などを使わなくても比較的簡便に使用できるようになってきている。

製剤の効果発現の時間によって超速攻型、速攻型、混合型、中間型、特効型溶解があり、血糖コントロールをできるだけうまくいくように考慮し使い分ける。

インスリン療法により追加分泌を再現する場合は、超速効型、速効型が、基礎分泌を再現する場合は、中間型、持効型溶解が用いられる。

https://www.dm-town.com/injection/insulin1/insulin1_003/

その他

アルドース還元酵素阻害薬(ARI)

グリコーゲン→グルコース(ブドウ糖:血糖)→ソルビトール

ソルビトールはグルコース(ブドウ糖)の還元物質(代謝物質)である。

高血糖(グルコースの増加)によりソルビトールも増加。

ソルビトールが増加すると神経障害などの様々な症状を呈する。

神経障害の改善のために、グルコースからソルビトールが生成される酵素であるアルドース還元酵素の働きを阻害し、薬効を発揮する。

神経障害治療薬

もともとは不整脈の薬であったメキシレチン(メキシチール)に疼痛性神経症の効果が認められて糖尿病合併症への適応が認められた。

心臓への影響も考慮して使うことが望ましい。

各種薬剤使用時の注意点

副作用としての低血糖(空腹感、手足のふるえ、意識低下)に注意する。

発熱、下痢、嘔吐、食欲不振時(シックデイ)にはBG、SGLT2阻害薬は一旦、中止する事が望ましい。

それ以外は主治医の指示に従う。

チアゾリジン誘導体 ・インスリン抵抗性改善は体重増加、体液貯留を引き起こしやすい。

SGLT2阻害薬の投与初期は尿量増加が起こり易い。

SGLT2阻害薬、GLP-1、メトホルミンは大動脈血管合併症抑制作用もみられるものがあり、これらの薬剤使用の優先順位が高まっている。

*一部のSGLT2阻害薬には慢性心不全、慢性腎不全の適応が追加された。

薬剤の成分名、商品名

ビグアナイド(BG)類

メトホルミン塩酸塩:メトグルコ、グリコラン

ブホルミン塩酸塩:ジベトス

チアゾリジン誘導体 ・インスリン抵抗性改善

ピオグリダゾン塩酸塩 :アクトス

スルホニル尿素系

第一世代

グリクロピラミド :デアメリンS

アセトヘキサミド :ジメリン

第二世代

グリクラジド :グリミクロン

グリベンクラミド:オイグルコン

第三世代

グリメピリド :アマリール

速効型インスリン分泌促進薬

ナテグリニド :ファスティック、スターシス

ミチグリニドカルシウム水和物:グルファスト

レパグリニド:シュアポスト

ミトコンドリア機能改善薬

イメグリミン塩酸塩:ツイミーグ

αグルコシダーゼ阻害薬(αGI)

ボクリボース:ベイスン

アカルボース:アカルボース

ミグリトール :セイブル

SGLT2 阻害薬

イプラグリフロジンL-プロリン:スーグラ

ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物 :フォシーガ*

ルセオグリフロジン水和物:ルセフィ

トホグリフロジン水和物 :デベルザ

カナグリフロジン水和物 :カナグル*

エンバグリフロジン:ジャディアンス*

*一部のSGLT2阻害薬には慢性心不全、慢性腎不全の適応が追加された。

SGLT2阻害薬は、尿への糖の排出を促すだけでなく、余分な水分や塩分も排出するため、心臓の負担を軽減。

SGLT2阻害薬は、腎臓の尿細管でナトリウムとブドウ糖の再吸収を阻害することで、尿量を増やし、余分な水分やナトリウムを排出。これにより、腎臓への負担が軽減され、腎臓病の進行を抑制する効果がある。

DPP-4阻害薬

インクレチン(GLP-1、GIP)を分解するDPP4という酵素を阻害

シダグリプチンリン酸塩水和物:ジャヌビア、グラクティブ

ビルダグリプチン:エクア

アログリプチン安息香酸 :ネシーナ

リナグリプチン:トラゼンタ

テネリグリプチン臭化水素酸水和物:テネリア

アナグリプチン:スイニー

オキサグリプチン水和物:オングリザ

トレラグリプチンコハク酸塩:ザファテック

オマリグリプチン:マリゼブ 1週間に1回

GLP-1受動体作動薬

リラグルチド:ビクトーザ 連日皮下注射

エキセナチド:バイエッタ 連日皮下注射

リキシセナチド:リキスミア 連日皮下注射

デュラグルチド:トルリシティ アテオス:週1回皮下注射 あてて押す 針は装着されている

セマグルチド:オゼンピック:週1回の皮下注射 

ウゴービ 週1回の皮下注射 別に針が必要 *ウゴービは肥満症にも適応。

リベルサス(内服)週1回の服用

リベルサスの注意点:1日のうちの最初の食事、又は飲水の前に、空腹の状態でコップ約半分の水(約120mL以下)で服用すること。

また、服用時、及び服用、後少なくとも30分は、飲食及び他の薬剤の経口摂取を避けること。

胃の中に食べ物や飲み物がある状態で服用すると、有効成分が吸収されなくなるため。

無理なく胃の中が空の状態となると、現実的には起床時。

投与を忘れた場合はその日は投与せず、翌日、投与する。

https://digital-clinic.life/column/3444/

GLP+GIP作動薬

チルゼパチド:マンジャロ、あてて押す 週1回投与(ゼップバウンド* 肥満症に適応)

配合剤 

チアゾリジン誘導体+BG

メタクト:ピオグリダゾン(アクトス)+メトホルミン

チアゾリジン誘導体+SU剤

ソニアス:ピオグリダゾン(アクトス)+グリメピリド

チアゾリジン誘導体+DPP4阻害薬

リオベル:ピオグリダゾン(アクトス)+アログリプチン(ネシーナ)

速効型インスリン分泌促進薬+αGI

グルベス:ミチグリニド(グルファスト)+ボクリボース

配合剤 DPP4+BG

エクメット LD、HD:ピルダグリプチリン(エクア)+メトホルミン:LDメトホルミン250㎎、HD500㎎配合

イニシンク:アログリプチン(ネシーナ)+メトホルミン

メトアナ:アナグリプチン(スイニー)+メトホルミン

配合剤 DPP4+SGLT2

カナリア:テネグリプチン(テネリア)+カナグリフロジン(カナグル)

スージャヌ:シダグリプチン(ジャヌビア、グラクティブ)+イプラグリフロジン(スーグラ)

トラディアンス:リナグリプチン(トラゼンタ)+エンパグリフロジン(ジャディアンス)

配合剤 インスリン・GLP-1

ゾルトファイ

ソリクア

インスリン製剤

インスリン治療では、自身で分泌できるインスリンの量や血糖値の状態、からだの状態などに合わせて、使用する製剤や回数、量(単位数)を決める。

血液や尿検査でインスリン分泌の度合いを測定するほかに、年齢や体型、糖尿病の診断に至った経緯、血糖値の推移、投薬に対する反応などをみながら少しずつ調整を行う。

超速効型、速効型はインスリン追加分泌パターンに近づける事を目的とする。

中間型、持効型は基礎分泌パターンに近づける事を目的とする。

混合型はインスリンの基礎分泌追加分泌を同時に行う事を目的とする。

https://www.dm-town.com/injection/insulin1/insulin1_003/

インスリンアナログ 超速攻型

インスリンアスパルト:ノボラピッド

インスリンリスプロ:ヒューマログ

インスリングルリジン:アピドラ

インスリンヒト(速効型

ノボリンR、ヒューマリンR Rは速効型インスリンを表す略称

インスリンアナログ 混合型 二相性

インスリンアスパルト二相性製剤:ノボラピッド30、50、70ミックス

インスリンアナログ 配合溶解

ンスリンデグルデグ・ンスリン アスパルト配合

ライゾデグ

インスリンリスプロ混合製剤

ヒューマログミックス25、50

ヒトインスリン混合型2相性

ヒト2相性イソフェンインスリン:ノボリン30R、イノレット30R、ヒューマリン30/7

インスリンアナログ中間型

中間型インスリンリスプロ:ヒューマログN

ヒトインスリン中間型

ヒトイソフェンインスリン水溶性懸濁:ノボリンN、ヒューマリンN NはNeutralで中間型を意味

インスリンアナログ持効性溶解

インスリングラルギン :ランタス、ランタスXR XRは、eXtended Releaseの意味、持続的に薬が体内に放出されること

インスリンデテミル:レベミル

インスリンデグルデク:トレシーバ


アルドース還元酵素阻害薬(ARI)

エパルレスタット:キネダック

神経障害治療薬

メキシレチン塩酸塩:メキシチール

ソマトメジンC

メセカルミン:ソマゾン

高インスリン血性低血糖治療薬

ジアゾキシド:ジアゾキシドOP

脂肪萎縮性治療薬

メトトレプチン:メトトレプチン「シオノギ」