降圧薬

降圧薬

高血圧の最終的な治療目的は脳卒中や心不全などの二次的疾患を予防し、生命予後を改善すること。

140/90 mmHg以上が持続すれば降圧薬の投与が必要となる。

目標血圧は75歳未満で130/80mmHg未満。

75歳以上で140/90mmHg未満。

分類と作用機序

降圧薬といっても色々な作用を持つものがある 。

適応として心疾患を持つものがあったり、体内の循環血液量を体外に排出させることで血圧を低下させるために浮腫(肝疾患によるもの腎疾患によるもの)に適応を持つものなども含まれる。

降圧薬には利尿剤、β遮断薬、αβ遮断薬、α1遮断薬、中枢性交感神経抑制薬、Ca拮抗薬、ACE阻害薬、AT拮抗薬またはARB、AT拮抗薬またはARBがある。

以下に示すものは全て降圧薬として血圧を下げる適応を持つものである。

・利尿薬

循環血液の絶対量を減らす事によって血圧を下げる。

サイアザイド系、ループ、K保持性*K保持性はサイアザイドやループによるアルドステロン性の低K血症を防ぐために投与されることが多い。

 

サイアザイド系

利尿作用を持ち体外への水分排出によって循環血液量を下げ血圧を下げる。

作用する場所は腎臓における遠位尿細管であり、そこでNa+イオンの体液側への再吸収を抑制する。

Na+は水分と共に再吸収されるのでNa+を抑制する事は結果として体液側へ再吸収される水分量の減少に繋がる。

体液側への水分の再吸収量が減少する事は体内循環血液量の低下につながり、最終的に血圧を低下させることができる。

特徴として減塩と同様の効果がある。

腎障害時にはループ系利尿剤を用いる。

ループ系

ヘンレ上行却でのNa、Clの吸収阻害。

MR拮抗薬

アルドステロン受容体に結合、Na再吸収、K排泄を抑制する。

・β-遮断薬

β遮断薬(β1選択制ISA(-))(β-blocker、以下の分類でのISAとは、何か刺激が生じたときにその反対の作用を表す事である。ホメオスタシスの様な概念で捉えると理解しやすい)

心臓に分布する交感神経系のβ受容体は心収縮力を高める作用を持つ。

結果、循環血に対する負荷は増大し血圧は上昇する。

この心収縮を弱めるためにβ受容体を弱める働きを持つのがβ遮断薬。

心臓の拍動力、拍動数を下げる事によって体内循環する血液に対する負荷を低減しその結果、血圧を下げる。

特徴として心合併症時や交感神経優位の高血圧症に有効。徐脈、気管支喘息には禁忌。

ISA作用を持つものは心臓の状態に合わせて作用を発現するものであり恒常性的な作用を持つ薬物である。

ISA(内因性交感神経刺激作用、Intrinsic Sympathomimetic Activity)とは、ベータ遮断薬の一部が、ベータ受容体を遮断するだけでなく、弱いながらも刺激する作用のこと。

・αβ遮断薬

血管平滑筋には自律神経系のα受容体が分布しており、α1受容体は血管収縮、α2受容体は血管拡張に働く。

そのためα1受容体をブロックする薬剤は血管拡張性をもつ。

加えてβ1受容体もブロックし血管拡張性をしめす。

・α-1遮断薬  

血管収縮作用を持つα-1受容体を遮断する。

早期高血圧に対し眠前投与、排尿障害に好影響。

起立性低血圧に注意。

・中枢性交感神経抑制薬

α受容体遮断薬での作用点は末梢の血管平滑筋であるのに対し、以下の薬剤は中枢(脳)で作用する事によって降圧効果を発現する。

中枢においてもα2受容体は降圧の側に働くのでその刺激薬は降圧効果を持つ。

通常汎用される事はあまりないが、他の降圧薬でコントロール不良の場合用いられる。

・Ca拮抗薬

血管平滑筋内のCaイオンチャネルをブロックし、その収縮を抑制し血管が収縮しなくなった結果、血圧を下げる。

ジヒドロピリジン系、ベンゾチアゼピン系薬剤がある。

ジヒドロピリジン系の特徴として高圧効果が確実、広く使用可能。狭心症や頻脈に適応。

心不全時にはアムロジピンなど作用時間の長いものを選択。

副作用も少なく多くの場合、第一選択薬となる。

ベンゾチアゼピン系の降圧効果は緩徐で弱い。

狭心症、頻脈に用いる。心不全、徐脈に禁忌または慎重投与。

・ACE阻害薬

アンギオテンシンという物質が体内において作られる。

アンギオテンシンはアンギオテンシノーゲンがアンギオテンシンⅠとなりその物質にアンギオテンシン変換酵素が働く事でアンギオテンシンⅡが生成される。

アンギオテンシンⅡはATⅠ受容体に結合し血管を収縮させる。

ACE阻害薬はアンギオテンシンⅡ生成過程におけるアンギオテンシン変換酵素を阻害し血管の収縮を防ぎ結果として血圧を下げる。

特徴として空咳に注意。

妊婦に禁忌。

・AT拮抗薬またはARB

ACE阻害薬で述べた様にアンギオテンシンのカスケードで最終的に血管拡張に結び付くアンギオテンシンⅡ(ATⅡ)という物質が生成され、受容体としてのAT1受容体、AT2受容体に結合する。

AT1受容体は血管平滑筋収縮やK保持性利尿薬で述べたアルドステロン分泌作用を持ち血圧を上昇させる働きを持つ。

一方、AT2受容体は反対の作用を持ち血管平滑筋弛緩作用などを持つ。

ATⅡ拮抗薬(ARB)はATⅡのAT1受容体への結合をブロックする事によって血圧を下げる。

特徴として副作用が少ない。

妊婦には禁忌。

ARBは腎臓の保護作用がある。

・AT拮抗薬ARB合剤

https://hrclinic-dk2.net/2023/12/16/arni/

バルサルタンの作用とサクビトリルの作用をもつ。

バルサルタンはATⅡのAT1受容体への結合をブロックする事によって血圧を下げる。

サクビトリルはネプリライシン(利尿ペプチド(BNP)などのナトリウム利尿ペプチド(NP)を分解する)を阻害。

その結果、体内のナトリウム利尿ペプチドの量が増加し、利尿作用や血管拡張作用によって体液量が減少する。

注意点

ジヒドロピリジン系降圧薬はグレープフルーツジュースとの併用で過度の降圧がおこる事がある。

βブロッカーは適応症により一日服用量や規格が異なる。

サプリメントは降圧薬の代替品にはなりえない。

テルチア、テラムロの取り間違いに注意する。

降圧治療の目標は心血管疾患の予防で治療薬の前に生活習慣改善を重視する。

血圧の上がり下がりに一喜一憂せず、何度も測った平均値が130/80未満となる事を目指す。

家庭血圧測定が強く求められる。

長期にわたって有効な服用を持続させる事が最大の要点である。

正常血圧が達成されたら降圧薬を中止する事も可能。ただし、その後の経過観察を必要とする。

薬剤成分名、商品名

サイアザイド系利尿剤

ヒドロクロロチアジド:ヒドロクロロチアジド「トーワ」

トリクロルメチアジド:フルイトラン

ベンチルヒドロクロロチアジド:ベハイド

サイアザイド系類似薬(非サイアザイド系)利尿薬

メチクラン:アレステン

インダパミド:ナトリックス、テナキシル

トリパミド :ノルモナール

メフルシド :バイカロン

利尿剤(その他)

トリアムテレン:トリテレン


β遮断薬(β1選択制ISA(-))

アテノロール:テノーミン

ビソプロロールフマル酸塩 :メインテート 、ビソノテープ

ベタキソール酸塩酸塩:ケルロング

メトプロロール酒石酸塩 :ロプレソール、セロケン

β遮断薬(β1選択制ISA(+))

アセブトロール塩酸塩 :アセタノール

セリプロロール塩酸塩:セレクトール

β遮断薬(β1非選択制ISA(-))

ニプラジロール :ハイパジール

プロプラノロール塩酸塩 :インデラル

ナドロール :ナディック

β遮断薬(β1非選択制ISA(+))

カルテオロール塩酸塩:ミケラン、ミケランLA

ピンドロール :カルビスケン

αβ遮断薬

アモスラロール塩酸塩:ローガン

アロチノロール塩酸塩 :アロチノロール塩酸塩DSP

カルベジロール :アーチスト

ラベタロール塩酸塩 :トランデート

ベバントロール塩酸塩 :カルバン

α遮断薬

ウラピジル :エブランチル

テラゾシン塩酸塩水和物:ハイトラシン、バソメット

ドキサゾシンメシル酸塩 :カルデナリン 、ドキサゾシン「VTRS」

ブナゾシン塩酸塩 :デタントール、デタントールR

フェントラミンメシル酸塩 :レギチーン

中枢性交感神経抑制薬

クロニジン塩酸塩 :カタプレス

グアナベンズ酢酸塩 :ワイデンス

メチルドパ水和物 :アルドメット

Ca拮抗薬(ジヒドロピリジン系)

アムロジピンベシル酸塩 :ノルバスク、アムロジンピン

エポニジピン塩酸塩エタノール付加物:ランデル

シルニジピン:アテレック

ニカルジピン塩酸塩:ペルジピン

ニトレンジピン :バイロテンシン

ニフェジピン :セパミット、ニフェジピン

ニフェジピン除法剤:アダラートL、セパミット-R、アダラートCR

ニルバジピン:ニバジール

バルニジピン塩酸塩 :ヒポカ

フェロジピン :ムノバール、スプレンジール

ベニジピン塩酸塩 :コニール

マニジピン塩酸塩:カルスロット

アゼルニジピン:カルブロック

Ca拮抗薬(ベンゾチアゼピン系)

ジルチアゼム塩酸塩 :ヘルベッサー

血管拡張薬

ヒドララジン塩酸塩 :アプレゾリン

ACE阻害薬

カプトプリル :カプトリル

エナラプリルマレイン酸塩:レニベース

アラセプリル :セタプリル

デラプリル塩酸塩:アデカット

リシノプリル水和物:ロンゲス、ゼストリル

ベナゼプリル塩酸塩 :チバセン

イミダプリル塩酸塩 :タナトリル

テモカプリル塩酸塩:エースコール

トランドラプリル :オドリック

ペリンドプリルエルブミン:コバシル

ATⅡ受容体拮抗薬

ロサルタンカリウム:ニューロタン

カンデサルタンシレキセチル:ブロプレス

バルサルタン :ディオバン

テルミサルタン:ミカルディス

オルメサルタンメドキソミル:オルメテック

イルベルサルタン:イルベタ ン

アジルサルタン:アバプロ

MR拮抗薬

スピロノラクトン:アルダクトンA

エプレレノン:セララ

エサキセレノン:ミネプロ

レニン阻害薬

アリスキレンフマル醆塩 :ラジレス

硝酸薬

ニトプロシルシドナトリウム:ニトプロ

合剤

配合剤の商品名、後発薬商品名

Ca拮抗薬・スタチン配合剤

アムロジピンベシル醆塩・アトルバスタチンカルシウム水和物:カデュエット

ARB・利尿薬配合剤

ロサルタンカリウム・ヒドロロクロロチアジド:プレミネント 、ロサルヒド

バルサルタン・ヒドロクロロチアジド配合 :コディオ、バルヒディオ

カンデサルタンレキセチル・ヒドロクロロチジド配合 :エカード、カデチア

テルミサルタン・ヒドロクロロチアジド配合 :ミコンビ、テルチア

イルベサルタン・トリクロルメチアジド配合 :イルトラ

ARB・Ca拮抗薬配合剤

バルサルタン・アムロジンベシル醆塩配合 :エックスフォージ、アムバロ

オルメサルタンメドキソミル・アゼルニジピン配合:レザルタス

カンデサルタンシレキセチル・アムロジピンベシル醆塩配合:ユニシア、カムシア

テルミサルタン・アムロジピンベシル醆塩配合 :ミカムロ、テラムロ

イルベサルタン・アムロジピンベシル酸塩配合 :アイミクス、イルアミクス

バルサルタン・シニルジピン配合 :アテディオ

アジルサルタン・アムロジピンベシル酸塩配合 :ザクラス、ジルムロ

ARB・Ca拮抗薬・利尿剤 配合剤

テルミサルタン・アムロジピンベシル酸塩・ヒドロクロロチアジド配合 :ミカトリオ

ARNI

サクビトリル・バルサルタンナトリウム配合:エンレスト