皮膚科用剤
皮膚科の治療の中で特に大切なものは外用薬(塗り薬)であり、その部分に適した塗り薬を数種類混ぜて使用するのが望ましい。
例えば軟膏基剤(ワセリンなど)に配合剤を加え、病態に併せて基剤を変更する。
たとえば湿疹の部位に小丘疹(皮膚の表面が小さく盛り上がったブツブツ)、小水泡(皮膚の表皮や表皮下に透明な液体が溜まって盛り上がった直径5mm以下の水ぶくれ)と湿潤面がある場合、ステロイドが配合剤された乳剤性軟膏(クリーム)を使用するとかえって悪化するので油脂性軟膏を用いる 。
角質が硬化している場合には角質を柔らかくするサリチル酸と、基剤としてワせリンを用いる。
乾燥してカサカサしている場合は皮膚の水分と皮脂のバランスを保たせるために尿素製剤と基剤として白色ワセリンを使用する。
病態そのものに薬効を発揮する薬剤と病態、塗布場所などを考慮し基剤を加える。
また塗り方にも注意しガーゼに伸ばして貼布することなど様々な手法がある。
化膿が見られる皮膚疾患には抗菌薬やサルファ剤を用いる。
浸潤性病変には水溶性軟膏であるソルベートを基材として用いる。
乾燥性による刺激性が懸念される場合はワセリン基剤に変更する。
剤形の種類、特徴
軟膏
軟膏の基剤は油。
ワセリンが多くもちいられる。
保湿性に優れる。刺激性が少ない。
どんな状態の患部にも使える。刺激性が弱いので肌の弱い人にも使える。
クリーム
クリームの基剤は水と油を混ぜた乳化剤。
べとつかず塗り心地が良い。
配合剤の皮膚への浸透性がよい。
ときに刺激性があり湿潤面などに適さない。
主に乾燥している患部に使用。ジュクジュクした患部、傷がある部分には適さない。
ローション、ソリューション(ローション剤の一種)
ローションの基剤は水と油を混ぜた乳化剤(クリームより水分量が多い)。
ときに刺激性があり湿潤面などに適さない。
軟膏やクリームが塗りにくい、頭皮など有毛部に適している。ジュクジュクした患部、傷がある部分には適さない。
テープ
簡易ODTとして用いる。
配合剤の吸収が促進される。
ときに刺激性がある。
各疾患での使用法
アトピー性皮膚炎
かゆみを伴う湿疹が慢性的に良くなったり悪くなったりを繰り返す。
スキンケア、薬物療法が基本となる。
乾燥肌を伴うのでスキンケアとして保湿剤を積極的に使用する。
皮膚の保湿を行った上でステロイド外用剤を塗布する。
痒みが強い場合は抗ヒスタミン薬を内服する。
タクロリムス外用薬はステロイド外用薬で治療が困難な場合にも有効。
生物学的製剤はスキンケアやステロイド外用薬やタクロリムス外用薬などの治療でもコントロールが難しい成人の重症の患者さんに用いる。
アトピー性皮膚炎の悪化因子となるサイトカインという物質をブロックすることで症状を改善させる。
JAK阻害薬も用いられる。
JAK阻害薬は、細胞内の情報伝達に必要な酵素JAKに結合し情報経路の伝達を断つ。
脂漏性皮膚炎、ふけ症
代表的な症状として、患部が赤くなり、フケが多くなることが挙げられる。
慢性的で再発する事が多く、皮脂の分解産物、脂肪酸による皮膚への刺激、マラセチアというカビ(真菌:マラセチアは皮脂を栄養源とする)の一種が関与している。
乾皮症、皮脂欠乏性湿疹
同じように角質の水分が失われた状態。
乾皮症は湿疹がなく、皮脂欠乏性湿疹は湿疹がある。
冬、高齢者に特に多い。
過度の暖房の是正、シャワーなどの回数の見直しが必要。
保湿のためにヘパリン類似物質やワセリンを用い、次にステロイド外用薬を使用する。
手(主婦)湿疹
手(主婦)湿疹とは、手のひらや手指、手首に赤みやかゆみ、水疱、ひび割れなどの症状が現れる状態を指す。
シャンプー、石鹸など原因となる物質をパッチテストで特定し回避する。
ステロイドや保湿剤に加え抗ヒスタミン薬(内服)を使用する。
蕁麻疹
悪化因子の除去、抗ヒスタミン薬の使用を行う。
十分な効果がみとめられない場合、薬剤の増量や複数の種類を使用する事もある。
膿痂疹(とびひ)
とびひとは、皮膚に細菌が感染することで起こる皮膚の病気。
湿疹や虫刺されなどを掻きこわした部位に細菌が感染し、そこから“飛び火”するかのように周辺や離れた部位に症状が広がる。
シャワー浴とし、患部をよく洗い落とす。
皮膚を多く事は望ましくない。
抗菌薬の内服、外用を使用する。
にきび(ざ瘡)
にきびとは、皮脂が毛穴の中にたまることから始まる慢性的な皮膚の炎症。
毛穴の閉塞と皮脂分泌の増加により起こり、毛穴の中でアクネ菌という細菌が増えることで悪化。
皮脂の除去、毛孔閉塞予防のため1日2回の洗顔をおこなう。
炎症がある場合、抗菌薬の外用を用いる。
ビタミンA誘導体と似た構造を含むディフェリンも用いられる。
白癬
白癬(はくせん)は、白癬菌と呼ばれるカビ(真菌)が皮膚に感染して起こる病気。
体の部位によって症状が異なる。
足にできる白癬は「水虫」、股にできる白癬は「いんきんたむし」、体にできる白癬は「ぜにたむし」、頭にできる白癬は「しらくも」とも呼ばれる。
抗真菌薬の外用であるクレナフィン、ルコナックが使用される。
疥癬
ヒゼンダニというダニが皮膚に寄生することで発症する感染症。
腹部、胸部、大腿内側などに激しいかゆみを伴う感染症。
スミスリンローション、ストロメクトールなどが用いられる。
尋常性白斑
皮膚のところどころが白くなる症状を呈する。
ステロイド外用剤を用いる。
乾癬
乾癬は、肘や膝、頭皮などに特徴的な赤い斑や鱗屑が現れ、全身のあらゆる部分に生じる。
症状は良くなったり悪くなったりを繰り返す難治性疾患である。
抗炎症作用のあるステロイドGCや、表皮角化作用抑制効果のある活性型VD3を使用する。
内服薬としてはエトレチナート:チガソン、免疫調節薬、免疫抑制薬、JAK阻害薬、TYK2阻害薬といった薬剤を用いる。
脱毛症
褥瘡(じょくそう)
寝たきりなどによって、体重で圧迫されている場所の血流が悪くなったり滞ることで、皮膚の一部が赤い色味をおびたり、ただれたり、傷ができてしまうことです。 一般的に「床ずれ」と呼ばれる。
ブロメライン軟膏、ゲーベン、ユーパスタ軟膏、カデックス軟膏を塗布する。
赤色期ではプロスタンディン軟膏、フィブラストスプレー、オルセノン軟膏、アクトシン軟膏を用いる。
白色期では被覆剤を用いる。
日光角化症
日光(紫外線)を浴び続けてきたことにより発症する皮膚疾患。赤いしみができる。
帯状疱疹
抗ウイルス薬の全身投与を行う。
帯状疱疹後の神経障害性疼痛にはプレガバリン:リリカ、ミロガバリン:タリージェが用いられる。
https://www.daiichisankyo-hc.co.jp/site_hifuken/
A、副腎皮質ステロイド外用剤
クロベタゾールプロピオン酸エステル:デルモベート、コムクロシャンプー
ジフロラゾン酢酸エステル:ダイアコート
ベタメタゾンジプロピオン酸エステル:リンデロンーDP、デルモゾールーDP
ジフルプレドナート:マイザー、ジフルプレドナート
フルオシノニド:トプシム
ジフルコルメトロン吉草酸エステル:ネリゾナ、テクスメテン
アムシノニド:ビスダーム
酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン:パンデル
ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル:アンテベート
モメタゾンフランカルボン酸エステル:フルメタ
デキサメタゾンプロピオン酸エステル:メサデルム
ベタメタゾン吉草酸エステル:ベトネベート、リンデロンーV、リンデロンーVG
オキサメタゾン吉草酸エステル:ボアラ
フルオロシノロンアセトニド:フルコート、フルコートF、デプロドンプロピオン酸エステル:エクラー
プレドニゾロン吉草酸エステル:リドメックス
トリアムシノロンアセトニド:レダコート
ヒドロコルチゾン酪酸エステル:ロコイド
クロベタゾン酪酸エステル:キンダベート、クロベタゾン酪酸エステル
アルクロメタゾンプロピオン酸エステル:アルメタ
デキサメタゾン:オイラゾン、デキサメタゾン「イワキ」
デキサメタゾン・脱脂大豆乾留タール配合:グリメサゾン
プレドニゾロン:プレドニゾロン、プレドニゾロン「VTRS」
ヒドロコルチゾン:テラ・コートリル
混合死菌浮遊液・ヒドロコルチゾン配合:エキザルベ
フルドロキシコルチド:ドレニゾン
B、非ステロイド性抗炎症外用剤
イブプロフェンピコノール:ベシカム、スタデルム
スプロフェン:スルプロチン、スレンダム、トパルジック
ベンタザック:ジルダザック
ウフェナマート:フエナゾール、コンベック
グリチルリチン酸:デルマクリン、ハイデルマート
C、鎮痒薬
クロタミトン:オイラックス
クロタミトン・ヒドロコルチゾン配合:オイラックスH
D、アトピー性皮膚炎生薬
タクロリムス水和物:プロトピック
デルゴシニブ:コレクチム
ジファミラスト:モイゼルト
アブロシチニブ:サイバインコ
ネモリズマブ:ミチーガ
トラロキシマブ:アドトラーザ
E、白班療薬
メトキサレン:オクソラレン
F、挫傷治療薬
ナジフロキサシン:アクアチム
クリンダマイシンリン酸エステル:ダラシンT
オゼノキサシン:ゼビアックス
アダパレン:ディフェリン、アダパレン
過酸化ベンゾイル:ベピオ
クリンダマイシンリン酸エステル水和物・過酸化ベンゾイル配合:デュアック
アダパレン・過酸化ベンゾイル配合:エピデュオ
G、乾癬治療薬
タカルシトール水和物:ボンアルファ、ボンアルファハイ
カルシトリオール:ドボネックス
マキサカルシトール:オキサロール
カルシポトリオール水和物・ベタメタゾンジプロピオン酸エステル配合:ドボベット
マキサカルシトール・ベタメタゾンリン酸エステルプロピオン酸エステル:マーデュオックス
H、角化症治療薬
尿素:ケラチナミン、ウレパール、パスタロン
サリチル酸:スピール膏、サリチル酸ワセリン
I、脱毛症治療薬
カルブロニウム塩化物:フロジン
フィナステリド:プロペシア
デュタステリド:ザガーロ、デュタステリドZA
リトレシチニブトシル酸塩:リットフーロ
J、ハンセン病治療薬
ジアフェニルスルホン:レクシチゾール、プロトゲン
クロファジミン:ランプレン
K、皮膚潰瘍治療薬
アズレン:アズノール
スルファジアジン銀:ゲーベン、ネキソブリッド
ブロメライン:ブロメライン
トレチノイントコフェリル:オルセノン
ブクラデシンナトリウム:アクトシン
白癬・ポビドンヨード配合:ユーパスタ、ソアナース
ヨウ素:カデックス、ヨードコート
アプロスタジルアルファデクス:プロスタンディン
トラフェルミン:フィブラスト
L、血行促進・皮膚保湿剤
ヘパリン類似物質:ヒルドイド、ヒルドイドソフト
M、皮膚保護剤・保湿剤
白色ワセリン:プロペト
亜鉛華軟膏:亜鉛華軟膏、ボチシート
腋毛貧毛治療薬
ビマプロスト:クラッシュビスタ
ビタミン
トコフェロール酪酸エステル:ユベラ、ザーネ
その他
フェノトリン:スミスリン
イミキモド:ベセルナ
プロプラノロール塩酸塩:ヘマンジオル
O、巻き爪治療補助薬
アセチルシステイン:リネイル
P、多汗症治療薬
ソフピロニウム臭化物:エクロック
グリコピロニウムトシル酸塩水和物:ラビフォート