片頭痛治療薬
病態
頭痛はよくある症状である。
しばしば生活に支障を来すことがあっても生命に関わるようなことはめったに無いとされている。
慢性の頭痛の大半は原発性疾患(その器官に問題が生じているもの、原因不明のもの)である。
2次性のものとしては、急性の全身性 または頭蓋内感染、頭蓋内腫瘍、頭蓋内損傷、重症高血圧、低酸素症、及び多くの眼、鼻、のど、歯、耳、頸椎などの病気によるものがある。
片頭痛は4~72時間続き、頭の半分だけが痛み、強さは並みの激しさから激しいものまで様々であり、身体運動を伴うと悪化し、悪心、嘔吐を催し光、音、臭いに関して感受性をもつ。
激しい運動の後や、緊張が解けてほっとした時、休日などにも起こりやすい 。また、ストレスやストレスからの解放、寝不足や寝過ぎ、女性ホルモンの変化(月経周期)、天候や気圧の変化、空腹、肩こり、アルコール、眼精疲労、悪い姿勢の保持、強い光の刺激の要因などが原因となる事もある。
片頭痛の1割前後で前兆(視野内に閃輝暗点が生じるなど)がみられる 。
片頭痛の発生メカニズムはまだ解明されていない部分もあるが有力な説としては、「セロトニン説」と「神経血管説」の2つがある。
ともに第5脳神経三叉神経が刺激されたときに起こる。
セロトニン説
遺伝要因も考えられている。
セロトニンは、血管平滑筋細胞の5-HT受容体を介して血管を収縮させる作用がある。
「セロトニン説」では脳血管内の血小板からセロトニンが放出され血管が収縮し血管障害が起こるというもの。
セロトニンが枯渇すると血管が拡張し三叉神経を刺激する。
結果、痛みの原因となる物質を放出する。
神経血管説
何らかの原因で脳の血管が拡張し、その拍動にともない血管周囲を取り巻く知覚神経である三叉神経が刺激されて、頭痛がおこるもの。
治療薬
片頭痛急性期
AAP、NSAIDs、トリプタン系薬、制吐薬が用いられる。
重積や治療抵抗性
鎮静麻酔薬、ステロイド、などを使用。
片頭痛 軽症~中等度
NSAIDsまたはNSAIDs+制吐薬、
中等度~重症、または軽症~中等度の頭痛でNSAIDsの効果がなかった場合。
トリプタン系が推奨されている。
いずれも制吐薬の併用は有用。
薬理作用
全体として片頭痛自身が脳血管の拡張に起因するものであるから、全体的に脳血管を収縮させる作用を持つ薬剤が使用される。
トリプタン系薬
スマトリプタン:イミグラン
トリプタン系薬の代表薬、スマトリプタン(イミグラン)はセロトニン受容体を介し、過度に拡張した頭蓋内外の血管を収縮させ正常にし、炎症を起こす物質の放出を抑えて血管周囲の炎症を抑える 。
セロトニンは、血管平滑筋細胞の5-HT受容体を介して血管を収縮させる作用がある。
スマトリプタンは結果、ほぼ70%の片頭痛を防ぐとされている 。
また、発作が1番激しい時期に至るまでのどのタイミングで服用しても効果があるとされている。
次世代とされる5-HT作動薬(エレトリプタン、ナラトリプタン、リザトリプタン、ゾルミトリプタン)は副作用の低減、効果の助長に重点が置かれている 。
屯用で使用するが、服用が過量にならないよう注意する。
キサンチン製剤
脳血管を収縮させ、その抵抗性を増加して脳血流が減少。
カフェイン:カフェイン、安息香酸ナトリウムカフェイン:アンナカなどカフェインは肝のCYP1A2で代謝されるため他の薬剤との併用には注意する
エルゴタミン製剤
麦角系アルカロイドの一種
血管収縮作用を有し、過剰な血管拡張を抑制する事で片頭痛の症状を抑える。
エルゴタミン酒石酸塩とジヒドロエルゴタミンのような麦角系のアルカロイド誘導体は経口、非経口にて使用され効果的である。
酒石酸エルゴタミンはセロトニン受容体に結合し血管収縮作用を示す。
副作用の面でトリプタン系の薬剤に劣っており汎用度は減少している。
カフェインとの合剤カフェルゴッドはエルゴタミン酒石酸塩に加えてカフェインが配合されておりエルゴタミン酒石酸塩の腸管吸収を促進させて同時にその頭痛暖解作用によってエルゴタミンの作用を強める。
ジヒドロエルゴタミン(ジヒデルゴット)は起立性障害、片頭痛の治療に用いる。
Ca拮抗薬
予防的治療に用いる。
血管の収縮と拡張の差を少なくすることで片頭痛の発作を予防する。
ロメリジン(ミグシス、テラナス)、ベラパミル、ジルチアゼムなどを使用する。
注意点
トリプタン系薬は初回投与量、追加投与量、1日最大容量について注意する。
薬剤の成分名と商品名
A、トリプタン系薬(5HT1B/1H受容体作動薬)
スマトリプタンコハク酸塩:イミグラン、スマトリプタン「SPKK」、スマトリプタン
ゾルミトリプタン:ゾーミッグ
エレトリプタン臭化水素酸塩:レルパックス、エレトリプタン「VTRS」、エレトリプタン
リザトリプタン安息香酸塩:マクサルト
ナラトリプタン塩酸塩:アマージ
B、セロトニン5-HT1F作動薬
ラスミジタンコハク酸塩:レイボー
C、エルゴタミン製剤
エルゴタミン配合:クリアミン
D、Ca拮抗薬
ロメリジン塩酸塩:ミグシス
E、抗セロトニン薬
ジメトチアジンメシル酸塩:ミグリステン
F、抗てんかん薬
バルプロ酸ナトリウム:デパケン(R)、セレニカ(R)
G、キサンチン製剤
カフェイン水和物:カフェイン水和物
安息香酸ナトリウムカフェイン:アンナカ「ホエイ」、安息香酸Naカフェイン「フソー」
H、抗CGRP製剤
ガルカネズマブ:エムガルティ
フレマネズマブ:アジョビ
I、抗CGRP受容体拮抗薬
エレヌマブ:アイモビーグ
J、非ステロイド性受容体抗炎症薬
注意点
トリプタン系薬は初回投与量、追加投与量、服用間隔、1日最大容量について説明する。
SSRIとの併用に注意。併用すると、脳内のセロトニンの活性が過剰になり、セロトニン症候群を引き起こす可能性がある。
新規治療薬である抗CGRP、受容体拮抗薬は高額だが効果が得られた場合、QOLを大きく改善させる。また、投与後のフォローも必要。
ラスミジタンはトリプタン系の効果不十分で使用。
薬物乱用頭痛(MOH:Medication Overuse Headache)への進展防止につとめる。https://setagayanaika.com/blog/130