下部消化管疾患治療薬(下剤など)
病態
下痢、便秘
下痢
「ぜん動運動」が異常に活発になった時や水分量の調節機能に障害が起き、便中の水分が増加して「下痢便」や「軟便」になった状態。
原因
腸蠕動運動の亢進。小腸大腸の吸収低下など。
急性の下痢症状は有害物質の排除などの目的がある。
激しい下痢は脱水や電解質異常などの原因となる。
経口による細菌やウイルスなどによる感染性の下痢もある。
その場合、ニューキノロン系薬剤、ホスミシン、カナマイシンが用いられる。
PPIの長期連用が下痢の原因になる事もある。
便秘
便秘とは、大腸内の便が順調に排泄されず長時間腸内に滞留する状態。
排便がない状態が3日程度続いている場合は便秘が疑われ、次のような症状が現れる。
お腹が張って苦しい、吐き気や嘔吐、 食欲低下。
原因
食事や水分が十分にとれていない、腫瘍による大腸の圧迫、無理なダイエット、食物繊維不足、排便を我慢する習慣、ストレスや精神的な問題など様々な原因に起因する。
大腸癌に起因する場合もある。
薬剤:麻薬、利尿薬による低カリウム血症、抗コリン作用を持つ薬剤(抗うつ薬など)、抗不整脈薬による場合もある。
腸の構造https://www.asahi.com/relife/article/12277263
薬剤
下部消化管疾患治療薬は
1、腸機能改善薬
2、過敏性腸症候群(IBS)
3、浸透圧性下剤
4、膨張性下剤、刺激性下剤、上皮機能変容薬
5、胆汁酸トランスポーター阻害薬
6、オピオイド誘発性便秘症治療薬
7、経口腸管洗浄薬
8、コリン類似薬
9、GLP-2アナログ
などに大別される。
1、腸機能改善薬
腸運動抑制薬
ロペラミド塩酸塩は中枢や末梢のオピオイド受容体に作用。
オピオイドはモルヒネなどの麻薬性鎮痛薬の総称。
オピオイド受容体(数種のサブタイプ:μやκ受容体がある。μ受容体、κ受容体)はアセチルコリン分泌を抑制する。
アセチルコリンの分泌低下は、腸管運動を低下させるため、オピオイド受容体のμ2受容体刺激薬は腸の蠕動運動抑制作用を持つ 。
*他にオピオイド受容体に作用し(腸運動が過活動の場合はAchを抑え、逆の場合はNAを抑え)腸管の蠕動運動を調整する薬剤としてトリメプチン:旧セレキノンがある。
収斂薬
収斂作用とは腸管粘膜などのタンパク質を変性させ止瀉作用(下痢を止める作用)を示すこと。
主作用は組織、血管を縮める作用であり、その結果、炎症、腸管蠕動運動抑制し止瀉作用もたらす。
タンニン酸アルブミン:タンナルビンがこの作用を持つ。
経口投与後、腸管内の消化液によって分解を受け、タンニン酸アルブミンからタンニン酸となる。
タンニン酸アルブミンは緩徐な収斂効果(腸粘膜保護、腸の炎症抑制)をしめす。
鉄剤とタンナルビンは結合するため禁忌。
アルブミンを含有するため、牛乳アレルギーには禁忌。
ビスマス製剤については収斂薬に比べると汎用はされていないが長期間連用時のZnの蓄積には注意を払うべきである。
吸着薬
細菌、毒物などによって産生されるガス、粘液などの有害物質を吸着し有害物質が腸管から吸収されるのを防ぎ下痢を抑える。
天然ケイ酸アルミニウムであるアドソルビンは細菌性毒素を吸着し腸管を保護する作用を持つ。
腐敗性、発酵性の下痢にも用いられる。
この薬剤は食物の成分を吸着するため食前、食間の服用となっている 。
天然ケイ酸アルミニウムは細菌性毒素を吸着する。
殺菌薬
腸管内殺菌作用をしめす。
殺菌薬ニューキノロン系抗菌薬、ホスホマイシン系抗菌薬とともに用いられる。
副作用は殆どなく安全に使用できる薬剤である。
乳酸菌(整腸)製剤
ビオフェルミン、ラックビー、ミヤBMなどが用いられる。
腸内細菌のバランスを整え下痢、便秘などを改善する。
通常、腸管内には無数の細菌が存在しその均衡がとれているため腸の作用は正常に機能している。
しかし、その均衡が崩れると腸機能の異常を起こす。
乳酸菌の働きにより発生する乳酸により腸内を酸性に傾け病原性大腸菌を阻止する。
腐敗発酵物であるアンモニアの産生、吸収も抑制する。
また抗菌薬使用時に整腸剤を合わせて使用する例が多いがこれは菌交代症の為である。
抗菌薬を使用すると正常細菌の減少や通常では少数しか存在しない菌が異常増殖する。
それによって正常細菌叢が乱れる。
また、抗菌薬と併用し下痢を防ぐ。
“耐性”を持った菌で作られた整腸薬が『ビオフェルミンR』や『ラックビーR』(※Rは耐性=Resistの意味)。
『ビオフェルミンR』は、各種抗菌薬が存在する環境下でも増殖し、腸内細菌叢の異常を改善することが確認されている整腸薬。
抗菌薬治療を行っている際の腸内細菌叢の改善には、通常の『ビオフェルミン』ではなく『ビオフェルミンR』を使う必要がある。
消化管ガス駆除薬
薬剤が持つ界面活性作用によって消化管内のガスを破裂させたり、流動性を高めて除去する。
ジメチコンは界面活性作用により消化管のガスを除去する。
漢方薬
五苓散、半夏瀉心湯などが下痢症状の改善に用いられる。
炎症性腸疾患治療薬(IBD)治療薬
一般的に、IBDは「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」の2つを指す。
潰瘍性大腸炎は、本来外敵から身を守る免疫システムが自分の大腸を異常に攻撃している状態。
重症度と、罹患範囲によって使用薬剤が選択される。
軽傷~中等度で5-ASA(ペンタサ、アサコール)、SASP(サラゾスルファピリジン)が用いられる。
5-ASAで不十分な場合、PSLを経口投与する。
PSLでも改善されない場合、TAC(タクロリムス)の経口投与、TNFα炎症を引き起こすサイトカインの阻害薬、JAK阻害薬などが用いられる。
クローン病も本来、外敵から身を守る免疫システムが自分の大腸を異常に攻撃している状態。
軽症では5-ASA製剤が用いられる。
その他、GCなどが用いられる。
2、過敏性腸症候群(IBS)治療薬
IBSは器質敵疾患がないにもかかわらず、腹痛や腹部膨満感など便通異常を呈する疾患である。
食生活や腸の運動を担う自律神経系(副交感神経)の異常や心身に対するストレス、心因性の場合、食物が原因の場合がある。
亢進した腸管運動の抑制、腸管の刺激に対する過敏性反応に対する抑制薬が中心。
抗コリン薬、整腸薬、消化管運動改善薬などが用いられる。
ポリフル、メペンゾラート臭化物、トリメブチンマレイン酸塩、イリボーが適応を持つ。
その他、胃炎に効果があるガスモチンや止瀉薬であるロペミン、下剤である酸化マグネシウム、モビコール、リンゼス、アミティーザ、グーフィスなどが用いられる。http://www.makino-sgclinic.com/ibs2/
ポリカルボフィル:ポリフルは下痢、便秘に効果がある。(下痢時には内容物の時間延長を、便秘時には通過時間を亢進)
メペンゾラート臭化物:旧トランコロンはムスカリン受容体に拮抗し副交感神経興奮による反応を抑制する。
トリメブチンマレイン酸塩は過敏性腸症候群や胃炎に効果がある。消化管のオピオイド受容体に結合し作用を発現する。
オピオイド受容体からのフィードは上述の2つの作動薬DAやAchの様に単純に1つの方向に消化器を持っていくのではなく、消化管の機能低下の場合は促進する方向にまた同時に消化管の機能が過活動の場合は抑制する方向にもっていくという2面性がある。
イリボーはセロトニンの作用を抑える(5-HT拮抗)ことで過敏性腸症候群による下痢や腹痛などの症状を改善する。
酸化マグネシウム・モビコールは浸透圧効果により、腸管内の水分量を増加させる。
リンぜス、アミティーザは腸管内への水分分泌を促し排便をうながす。
グーフィスは、胆汁酸の輸送に関わる胆汁酸トランスポーターの働きを阻害し胆汁酸の再吸収を抑え、胆汁酸の大腸への移行を促すことで、大腸管腔内への水分分泌や消化管運動を促進し便秘を改善する。
必要に応じ、消化管運動改善薬、精神安定薬、抗うつ薬、副交感神経遮断薬を用いる。
下剤(緩下剤、瀉下薬)
下剤はその機序から以下のA、浸透圧性下剤、B、膨張性下剤、C、刺激性下剤、D、上皮機能変容薬、E、胆汁酸トランスポーター阻害薬、F、自律神経作動薬に分類される。
下剤の解説chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://takanawa.jcho.go.jp/wp-content/uploads/2018/06/koukaikouza300609_4.pdf
3、浸透圧性下剤
塩類下剤は習慣性が少ない。長期投与に向いている。
代表的な薬は酸化マグネシウムであり、他の疾患に伴う便秘などで度々汎用される。
浸潤性下剤は界面活性作用をもち、便の表面張力を低下させる。
結果、便の外から中への水分の移動が起こり水分含有量が増加し、排便へとつながる。
糖類下剤はD-ソルビトール、ラクツロース。薬剤自体が腸内で分解され、有機酸を発生、浸透圧を高めるとともに、腸管の蠕動運動を促進し、浸透圧性下剤としての作用を示す。
4、膨張性下剤、刺激性下剤、上皮機能変容薬
膨張性下剤
多量の水分を含んで膨張。習慣性はない。
作用は緩徐。高齢者にも使用しやすい。
膨張性下剤はバルコーゼなど。
腸管において多用の水分を吸収し排便を促すため腸管の蠕動運動が弱っている弛緩性便秘に有効とされている。
刺激性下剤
直接大腸粘膜を刺激する。連用によって耐性がみられる為、注意が必要。
ピコスルファートには習慣性がなく高齢者、幼児、小児、にも頻用される。
その他 便秘に対して下剤を使うことも重要だが、排便に対して食事時間、食事内容、生活の習慣などに考慮するこも重要。
小腸刺激性下剤 ヒマシ油など現在では殆ど汎用はない。
浣腸剤はグリセリン系(グリセリン浣腸など)が主体、経口投与が無理な場合や、即効性を期待する場合、難便性の場合などに使用。
他、患者が併せ持つ疾患、併用薬剤の有無も排便に影響を強く及ぼすので、それらの要因に十分に留意することが必要。
上皮機能変容薬
小腸のクロライドチャネルを活性化することで腸管内への腸液の分泌を上げ、便の水分含有量を増やして排便を促進させる。
5、胆汁酸トランスポーター阻害薬
肝臓でコレステロールから合成された胆汁酸の多くは小腸で再吸収され肝臓に戻る腸肝循環が行われている。
再吸収されなかった胆汁酸は大腸管腔内に水分を分泌させ、さらに消化管運動を促進させる作用などをあらわす。
短腸症候群治療薬
GLP-2アナログなどの使用で小腸粘膜の吸収能を増加させる事が有効。
6、オピオイド誘発性便秘症治療薬
消化管の末梢オピオイド受容体のμ受容体に結合してオピオイド鎮痛薬による便秘を抑制する。
7、経口腸管洗浄薬
8、コリン類似薬
自律神経系の副交感神経に作用するAchは腸管の蠕動運動を促進する。
9、GLP-2アナログ
GLP2受容体に作用、腸管級収能を高める。
短腸症候群(何らかの原因で小腸を大量に切除したり、生まれつき腸が短かったりすることで、栄養素を十分に吸収できなくなった状態)に用いられる。
*注意事項
下痢が持続する時は脱水に注意する。
IBSによる下痢症状が続いている場合には職場、家庭環境を治療への手がかりとする。
便秘が続く場合、水分の十分な接種、規則正しい生活、十分な運動などの生活習慣改善にも心がける。
急性の便秘では、併用薬による可能性を疑う。
下剤使用時には腸閉塞(イレウス)に注意。
治療薬の成分名と商品名
1、腸運動抑制薬
1-1、腸運動抑制薬
ロペラミド塩酸塩:ロペミン、ロペラミド塩酸塩
1-2、収斂薬
タンニン酸アルブミン:タンニン酸アルブミン
ビスマス製剤:次硝酸ビスマス、次没食子酸ビスマス
1-3、吸着薬
天然ケイ酸アルミニウム:アドソルビン
1-4、殺菌薬
ベルベリン塩化物水和物:フェロベリン
1-5、活性生菌製剤
ラクトミン製剤:ビオフェルミン
ビフィズス菌:ラックビー、ビオフェルミン
ビフィズス菌・ラクトミン配合:ビオスミン、レベニンS
酪酸菌:ミヤBM
酪酸菌配合:ビオスリー
耐性乳酸菌:ビオフェルミンR、ラックビーR、耐性乳酸菌「トーワ」、レベニン
1-6、乳糖分解酵素薬
βーガラクトシターゼ(アスペルギルス):ガランターゼβーガラクトシターゼ(ペニシリウム):ミルラクト
1-7、消化管ガス駆除薬
ジメチコン:ガスコン
2、過敏性腸症候群(IBS)治療薬
ポリカルボフィルカルシウム:ポリフル、コロネル
消化管内で水分を吸水し膨潤・ゲル化することにより、消化管内容物の輸送を調節し、下痢、便秘を改善。
メペンゾラート臭化物:メペンゾラート臭化物「ツルハラ」:旧トランコロン
ラモセトロン塩酸塩:イリボー 抗セロトニン作用
セロトニンの作用を抑える(5-HT拮抗)ことで過敏性腸症候群による下痢や腹痛などの症状を改善する。
リナクロチド:リンゼス 腸管内への水分分泌を増加させる
上皮機能改善薬
ルビプロストロン:アミティーザ
3、浸透圧性下剤
3-1、塩類下剤
酸化マグネシウム:酸化マグネシウム
硫酸マグネシウム水和物:硫酸マグネシウム
硫酸ナトリウム配合:人工カルルス塩
マグコロール4000配合:モビコール
(HDは、LDの2倍量が1包に包装されている高用量製剤)
3-2、糖類下剤
D-ソルビトール:D-ソルビトール
ラクツロース:ラグノスNF
3-3、浸潤性下剤
ジオチルソジウムスルホサクシネート:ビーマス
4、膨張性下剤
カルメロースナトリウム:カルメロースナトリウム
5、刺激性下剤
5-1、小腸刺激性下剤
ヒマシ油、加香ヒマシ油:ヒマシ油、加香ヒマシ油
5-2、大腸刺激性下剤
センナ:センナ、アジャストA、ヨーデルS、アローゼン
センノシド:プルゼニド、センノシド
ダイオウ:ダイオウ
ダイオウ配合:セチロ
ピコスルファートナトリウム水和物:ラキソベロン、スナイリン、ピコスルファートNa、ピコスルファートナトリウム
アロエ:アロエ
炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム配合:新レシカルボン
ビサコジル:テレミンソフト
6、上皮機能変容薬
ルビプロストロン:アミティーザ
7、胆汁酸トランスポーター阻害薬
エロビキシバット水和物:グーフィス
8、オピオイド誘発性便秘症治療薬
ナルデメジントシル酸塩:スインプロイク
9、経口経腸洗浄薬
クエン酸マグネシウム:マグコロール
電解質配合:ニフレック、ムーベン
電解質配合:モビプレップ
リン酸ナトリウム塩配合:ビジクリア
ピコプレップ
サルプレップ
浣腸剤
グリセリン
10、コリン類似薬
アセチルコリン塩化物:オビソート
ベタネコール塩化物:ベサコリン
11、GLP-2アナログ
テデュグルチド:レベスティブ