造血薬
血液をつくっている場所が、骨の中心部にある骨髄。
ここに造血幹細胞という血をつくる細胞があり、骨髄の中で盛んに細胞分裂を行い、赤血球・白血球・血小板の三種の血球に成長する。
造血を語るうえで欠かせないのが、赤血球産生を制御するホルモンのエリスロポエチン(EPO)。
体内で低酸素状態が感知されると、腎臓が応答してエリスロポエチンが分泌され、骨髄中の造血幹細胞に働いて血球の産生を刺激する。
病態
造血作用の低下に伴う貧血の種類として鉄欠乏性貧血、巨赤芽球性貧血、鉄芽球性貧血、溶血性貧血、再生不良性貧血、腎性貧血が挙げられる。
貧血といってもこのように様々な原因にもとづく病態があり、それぞれに適した薬剤がある。
造血薬として汎用されるものは鉄剤、ビタミンB6、B12、葉酸(ナイアシン)、またステロイドも再生不良性貧血に対して効果を発現する。
主な貧血の種類と治療法
1、鉄欠乏性貧血:鉄剤
鉄が不足すると赤血球内のヘモグロビンが減少し、貧血を引き起こす。
ヘモグロビンは、赤血球に含まれる鉄を含むタンパク質。
貧血の中で最も頻度が高い。
体内には3~5gの鉄が存在し、その大部分はヘモグロビンとして赤血球の中に含まれている。
2、巨赤芽球性貧血(悪性貧血):VB12(コバラミン)、葉酸
骨髄に巨赤芽球と呼ばれる異常な赤血球が産生される貧血。
赤血球が巨大化して、異常な赤血球となり、貧血となる。
「ビタミンB12」もしくは「葉酸」が「不足した」か「利用できなくなった」ために起こる貧血。
ビタミンB12の吸収に必要な胃壁細胞から分泌される糖タンパク質の内因子の不足によってもおこる。
3、鉄芽球性貧血:VB6 (ピリドキシン)
指定難病であり、骨髄に環状鉄芽球という異常な赤芽球(成熟した赤血球になる前の未熟な赤血球を赤芽球という)の出現を特徴としている。
鉄の利用がうまくいかずに発症する貧血。
4、溶結性貧血:ステロイド
自身の赤血球に結合する 自己抗体 (蛋白)ができて、赤血球が異常に早く破壊されておこる貧血。
血管内の赤血球が破壊(溶血)されることで赤血球数が減する。
5、再生不良性貧血:免疫抑制薬:ステロイドなど
再生不良性貧血の大多数は、自己免疫的な(免疫を司る細胞が自分の細胞を攻撃する) 機序 によって造血幹細胞が傷害される結果発症すると考えられている。
骨髄にある造血幹細胞と呼ばれる血液細胞の種が減少することにより、白血球、赤血球、血小板といった血液細胞の全てが減少する。
6、腎性貧血:ESA:赤血球造血刺激因子製剤など
腎臓の機能が低下すると、赤血球をつくるホルモンであるエリスロポエチン(エリスロポエチン(EPO)は骨髄を刺激して赤血球を産生させるホルモン)の分泌が減る。赤血球の生成能力が低下し、赤血球が不足して貧血が起こる。
鉄剤
鉄欠乏性貧血や、慢性出血、萎黄病、妊娠に用いる。
薬剤としては除放性鉄剤と有機鉄剤に分けられる。
除放性鉄剤には硫酸鉄水和物:フェロ・グラデュメット、有機酸鉄はクエン酸第一鉄ナトリウム:フェロミアが代表的である。
いずれも鉄欠乏性貧血に対しての適応を持つが、持たないものに対しては禁忌である。
経口鉄剤は消化器系に影響し、悪心、嘔吐、腹痛、腹部不快感、下痢、便秘などをもたらすことがある。
ひどい場合には鉄剤本体に影響を及ぼさない胃薬を追加処方する必要がある。
ビタミンB12(コバラミン)
悪性貧血では内因子(胃壁細胞から分泌され、ビタミンB12と結合して小腸から吸収されるのを助ける)が欠乏しておりビタミンB12を注射で用いる。
貧血が回復するまで続ける。
葉酸
葉酸欠乏は大球性貧血、巨赤芽球性貧血(悪性貧血)をおこす。
ビタミンB6(ピリドキシン)
ビタミンB6は鉄芽球性貧血、ピリドキシン反応性貧血の治療に用いる。
赤血球造血刺激因子(ESA)
エルスロポエチンEPOは腎臓において産生され分泌され、赤血球の産生を促す。
腎性貧血、未熟児貧血、自己血貯血に対する効果も認められている。
腎機能低下から透析治療に移行し、貧血症状が認められた場合の治療に用いられる。
エポエチンアルファ:エスポーやエポエチンベータ:エポジンなどがある。
無顆粒コロニー因子
G-CSFは好中球の酸性を高める。
その他、
抗胸腺細胞グロブリン
シクロスポリン
Tリンパ球抑制作用を持つ。
抗補体モノクローナル抗体
トロンボポエチン受容体作動薬
トロンボポエチン受容体に作用する。
幹細胞動員促進薬
骨髄から末梢への造血幹細胞の動員を促進する。
HIF-PH阻害薬
EPO酸性促進の因子を阻害する酵素を阻害する。
薬剤の分類
A、徐放鉄剤
B、有機鉄剤
C、注射用鉄剤
D、赤血球造血刺激因子(ESA)
F、HIFーPH阻害薬
G、G-CSF
H、トロンボポエチン受容体作動薬
I、抗補体(CS)モノクローナル抗体
J、補体(C3阻害薬)
K、抗補体モノクローナル抗体
A、徐放鉄剤
乾燥硫酸鉄:フェロ・グラデュメット
B、有機鉄剤
溶性ピロリン酸第二鉄:インクレミン、フェルム、クエン酸第一鉄ナトリウム
C、注射用鉄剤
含糖硫化鉄:フェジン
カルボキシマルトース第二鉄:フェインジェクト
デルイソマルトース第二鉄:モノヴァー
D、赤血球造血刺激因子
エポエチンアルファ:エスポー
エポエチンベータ:エポジン
ダルベポエチンアルファ:ネスプ、ダルベポエチンアルファ「KKF」
エポエチンベータペゴル:ミルセラ
F、HIFーPH阻害薬
ロキサデュスタット:エベレンゾ
ダプロデュキサット:ダーブロック
バダデュスタット:バフセオ
エナロデュスタット:エナロイ
モリデュスタットナトリウム:マスーレッド
G、G-CSF
フィルグラスチム:グラン
レノグラスチム:ノイトロジン
ベグフィルグラスチム:ジーラスタ
幹細胞動員促進薬
プレリキサホル:モゾビル
抗ヒト胸腺細胞ウサギ免疫グロブリン:サイモグロブリン
抗ヒト胸腺細胞ウマ免疫グロブリン:アトガム
結核菌製剤:アンサー
白血球減少治療薬
アデニン:ロイコン
Lーシステイン:ハイチオール
セファランチン:セファランチン
H、トロンボポエチン受容体作動薬
エルトロンボパグトラミン:レボレード
ロミフロスチム:ロミプレート
ルストロンボパグ:ムルプレタ
アバトロンボパグマレイン酸塩:ドプテレット
I、抗補体(CS)モノクローナル抗体
エクリズマブ:ソリリス
ラブリズマブ:ユルトミリス
補体(CS3)阻害薬
ペグセタコプラン:エムパベリ
抗補体(Cls)モノクローナル抗体
スチムリマブ:エジャイモ