骨・カルシウム代謝薬
病態
骨が弱くなる病気。骨がやせてもろくなる。これを骨密度の低下という。
骨粗鬆症になると、骨が折れやすくなる。
原因
女性では、エストロゲン(女性ホルモン)の量が減る。
男性では、テストステロン(男性ホルモン)の量が減る。
ビタミンDやカルシウムの不足も原因となる。
骨を形成するサイクルとしては骨吸収(吸収だが、骨の実際の量は低下する)といい、骨からCaが放出され分解され破壊されていく状態と、その反対で骨が新しく作られていく骨形成があり、生涯にわたって骨はこの2つの過程を繰り返している。
骨吸収は破骨細胞、骨形成は骨芽細胞によって担われている。
この両方の代謝のバランスによって骨量が決まる。
バランスが崩れると詳細は以下に示すが骨量に異常をきたす。
年齢的には 30歳代まで骨吸収と骨形成は良好なバランスを保ち疾患に結び付くことは少ない 。
しかし40歳代に入り骨吸収量と骨形成量のバランスが崩れ骨吸収量が骨形成量を上回り結果骨量が少なくなる。
骨形成、骨吸収においては性差が認められており、女性の場合は閉経後10年間で著しく骨吸収が亢進する事が知られている。
骨吸収と骨形成のバランスが崩れることで骨吸収が上回った場合、表出する疾患としてあげられる最たるものは骨粗鬆症。
薬物治療
骨吸収と骨形成のサイクルに作用する薬剤が使用される 。
現在、骨粗鬆症治療薬としては、
1、カルシトニン製剤、注射薬のみ存在する。
*2、ビスホスホネート製剤、
*3、活性型ビタミンD3製剤、
4、女性ホルモン製剤、
5、SERM、ラロキシフェン:エビスタ、バゼドキシフェン酪酸塩:ビビアント
6、抗RANKLモノクローナル抗体、注射薬のみ存在する。
7、ヒト化スクレロスチンモノクローナル抗体、注射薬のみ存在する。
8、ビタミンK製剤、メナテトレノン:グラケーのみ存在する。
*9、カルシウム製剤、
10、甲状腺ホルモン受容体作動薬(注射薬のみ存在する。)
がある。
1、カルシトニン製剤
注射薬のみ存在する。
破骨細胞の活動抑制効果により作用を発現する。
骨吸収を抑制し骨量の低下を防ぐ。
骨折予防に関しては有意な効果がある。
カルシトニン製剤は他の骨粗鬆症と異なり、疼痛緩和効果も持つ。
そのため腰背部痛を併発している例では第一選択薬となり得る 。
疼痛緩和作用を期待する場合、筋肉注射によって薬剤の投与を行う 。
2、ビスホスホネート製剤
骨中のハイドロキシアパタイトに吸着し破骨細胞に対し刷子縁の消失、細胞骨格の変化をもたらす。
骨吸収を抑制する効果は強力であり、骨吸収、骨形成の負のバランスつまり骨吸収能が、骨形成を上回っている状態のNegative balanceを改善し骨量の低下を防ぐ。
このカテゴリにおいて骨粗鬆症に対して 第一選択薬となる。
薬剤はアレンドロネートとリセドロネート、ラロキシフェンである。
エチドロネートは第一世代と呼ばれる薬剤でありアレンドロネートは第2世代、リセドロネートは第3世代と呼ばれる。
BP製剤はいずれも腸管吸収が極めて低い 。
食事摂取によって影響を受けその吸収量が低下するので用法は早朝空腹時服用とされている。
また食道粘膜に長く留まるとkeratinocyteを抑制し食道潰瘍や食道炎を引き起こすので服用後30分は横になるのを避ける。
服薬は朝食事前30分、服薬後は座位を保つことである。
そういった服用ができない場合は投与禁忌とされている。
これらは服薬指導において十分留意すべき事項である。
これらの消化器にかける負担は投与回数にも依存しているという現状から週に1回の投与で効果を発現する製剤も発売されている。
その他の副作用として食道に影響を及ぼすもの以外に吐き気、嘔吐、胃部不快感、下痢、便秘などがある。
が軽症で済むことが多いとされている。
3、活性化ビタミンD3製剤
ビタミンD3は皮膚において紫外線による作用を受け活性型ビタミンD3となる。
活性型ビタミンD3はCaの吸収に寄与し骨形成へとつながる。
アルファカルシドール、エルデカルシトールが汎用される。
アルファカルシドールは、小児、腎臓の機能が低下している方にも処方され、効能効果が幅広い。
・慢性腎不全・副甲状腺機能低下症・ビタミンD抵抗性クル病・骨軟化症におけるビタミンD代謝異常に伴う諸症状(低カルシウム血症、テタニー、骨痛、骨病変等)の改善。
一方、エルデカルシトールは消化管からのCa吸収促進作用、骨吸収抑制作用を持ちBPやSERMに匹敵する骨吸収抑制作用を持ち適応は骨粗しょう症のみで、妊婦、妊娠している可能性のある婦人又は授乳婦に禁忌。
・骨粗しょう症
活性化ビタミンD3製剤は基礎的治療薬として重要である。
日光に当たることの少ない生活環境下にある高齢者や、牛乳等からのCaの摂取が少ない例では良い適応となる。
4、女性ホルモン製剤
5、SERM
エストロゲン(女性ホルモン受容体)に結合。骨に対して刺激薬として作用し骨吸収抑制作用を示す。
ラロキシフェン:エビスタは組織別にAgonistにもAntagonistともなる。
骨、脂質代謝ではAgonistとして、子宮内膜、乳房組織ではAntagonistとして作用する。
適応は閉経後骨粗鬆症であり、比較的早期の女性で椎体骨折の第一選択薬となる。
6、抗RANKLモノクローナル抗体
注射薬のみ存在。
破骨細胞(骨を壊して骨の新陳代謝を担う細胞)分化誘導因子(RANKL)に対するモノクローナル抗体。
6か月に1度の注射を行う。
強力な骨吸収抑制作用を示す。中止後は他の骨吸収抑制薬の使用に移行する。
7、ヒト化スクレロスチンモノクローナル抗体
骨形成促進、骨吸収抑制作用を持つ。
1か月に1度の注射を行う。注射薬のみ存在。
その他、
沈降炭酸カルシウム、コレカルシフェロール、炭酸マグネシウム:デノタスは、抗RANKLモノクローナル抗体薬注射時に起こる高カルシウム血症に用いる。
8、ビタミンK製剤
メナテトレノン:グラケーのみ存在。
ビタミンK2であり骨芽細胞に直接作用、骨形成を促進することにより骨代謝回転を高める。
同時に骨吸収を抑制し、骨粗鬆症の骨代謝の不均衡を改善し、骨量の維持作用を示す。
骨形成を促進、骨吸収活性の抑制によって効果を発現する。
ビタミンK2の摂取不良は骨折リスクを高めるということが言える。
胃切除後、アルコール多飲酒者、肝、胆道系疾患(肝疾患治療薬、胆道系疾患治療薬の項参照)、抗生剤長期使用者などの患者はビタミンKの摂取不良が予測されるのでそれらの疾患を持つ患者の骨粗鬆症の治療に適している。
9、カルシウム製剤
まずCa摂取不良例の患者においては食事からの摂取を推奨するために食事指導を行う。
それでも十分な効果が認められない場合に本剤が適用となる。
わずかに骨密度の増加効果を発現するにとどまる 。
他剤と比較するとその効果は弱い。
そのため他剤との併用で骨粗鬆症の治療に用いられることが多い 。
10、副甲状腺ホルモン受容体作動薬
もともとは骨吸収を促進することで血液中のカルシウム度を上げる作用が知られていた。
しかしながら、投与方法によっては骨量を増加させることが示され、ヒト副甲状腺ホルモン1-34(テリパラチド)が骨粗しょう症治療薬として製造販売承認された。
注射薬のみ。
1日1回、週1回の製剤がある。骨形成促進作用がある。
注意点
骨折予防の重要性を伝える事が重要。
BP製剤は投与間隔の異なる薬剤がある。
BP製剤、抗RANKLモノクローナル抗体使用中の歯科治療には注意する。
SERM、副甲状腺ホルモン製剤の副作用が疑われる症状は医師に相談するよう指導する。
カルシウムを摂取する、骨に刺激を与える運動をする、日光浴をする、喫煙や過度の飲酒を控える事が必要。
薬剤
カルシトニン製剤
エルカルシトニン:エルシトニン、エルカルシトニン「TBP」
ビスホスホネート(BP)製剤
エチドロン酸二ナトリウム:ダイドロネル
パミドロン酸二ナトリウム水和物:パミドロン酸二Na「サワイ」
アレンドロン酸ナトリウム水和物:フォサマック、ボナロン *経口ゼリー製剤あり。服用方法は錠剤と同じ
リセドロン酸ナトリウム水和物:ベネット、アクトネル
ミノドロン酸水和物:リカルボン、ボノテオ
イバンドロン酸水和物:ボンビバ 月1回投与
ゾレドロン酸水和物:ゾメタ、ゾレドロン酸「サンド」、ゾレドロン酸、リクラスト
活性型ビタミンD3製剤
アルファカルシドール:ワンアルファ、アルファロール
カルシトリオール:ロカルトロール
マキサカルシトール:オキサロール、マキサカルシトール
ファシカルシトリオール:ホーネル、フルスタン
エルデカルシトール:エディロール、エルデカルシトール「トーワ」
エルデカルシトールは消化管からのCa吸収促進作用、骨吸収抑制作用を持ちBPやSERMに匹敵する骨吸収抑制作用を持つ。
SERM
ラロキシフェン塩酸塩:エビスタ
バゼトキシフェン酢酸塩:ビビアント
抗RANKLモノクローナル抗体
デノスマブ:ランマーク、プラリア
ヒト抗体スクレロスリンモノクローナル抗体
ロキソズマブ:イベニティ
その他
沈降炭酸カルシウム・コレカルシフェロール・炭酸マグネシウム配合:デノタス
ビタミンK2製剤
メナテトレノン:グラケー
カルシウム製剤
乳酸カルシウム水和物:乳酸カルシウム
グルコン酸カルシウム水和物:カルチコール
Lーアスパラギン酸カルシウム水和物:アスパラーCA
塩化カルシウム水和物:塩化カルシウム、大塚塩カル、塩化Ca補正液
リン酸水素カルシウム水和物:リン酸水素カルシウム
副甲状腺ホルモン受容体作動薬
テリパラチド酢酸塩:テリボン
テリパラチド:フォルテオ
アバロパラチド酢酸塩:オスタバロ
リン酸塩製剤:ホスリボン
抗繊維芽細胞増殖因子23抗体
ブロスマブ:クリースビータ
抗繊維芽細胞増殖因子受容体3型阻害薬
ボソリチド:ボックスゾゴ