脂質異常症治療薬
病態
脂質異常症は動脈硬化のリスク要因の一番目に挙げられる。
動脈硬化とは血管、特に動脈の壁が厚く硬くなる状態を指す。
血管は通常、弾力性があり、しなやかであるが危険因子によって厚く硬くなる。
この変化を動脈硬化とよぶ。https://doumyaku-c.jp/knowledge/
動脈硬化が進行すると心不全(心筋梗塞など)や、脳卒中(脳梗塞など)にいたる。
脂質異常症の治療は主に動脈硬化予防のため。
脂質異常症とはコレステロール、中性脂肪、遊離脂肪酸のうちコレステロールと中性脂肪のいずれか正常値からはずれた場合を指す。
LDLコレステロール(悪玉コレステロール)・・・140mg/dL以上
HDLコレステロール(善玉コレステロール)・・・40mg/dL未満
トリグリセライド(中性脂肪)・・・150mg/dL以上
治療においてはLDLとTGを低下させ、HDLを上昇させることが目的。
生活習慣改善の必要性も理解してもらう事が重要。
脂質
血液中の脂肪分は、大きくコレステロールと中性脂肪に分けられる。
コレステロール
脂質・糖質をもとに、肝臓でつくられる(7~8割)。他は食べ物から。
全身の細胞膜やステロイドホルモン(男性ホルモンや女性ホルモン、副腎皮質ホルモンなど)、胆汁酸(脂質の消化・吸収を助ける物質)などの材料として、重要な役割を果たしたり、食べ物から摂取した脂肪の分解をたすける胆汁をつくるもととなる。
コレステロール(脂質の一種)は血液中に溶けないため、アポ蛋白(血液中の蛋白)と結合しリポ蛋白(脂質とタンパク質の複合体の総称)という形で血液中に存在し、必要な部位に届けられる。
リポ蛋白は結合体中の脂肪の密度の量から低比重リポ蛋白:LDL、超低比重リポ蛋白、高比重リポ蛋白:HDLに分類される。
HDL、LDLは血液内で反対の働きであることが分かっており、LDLは肝臓から全身の組織へコレステロールを運び出す働きがあるのに対し、HDLはコレステロールを取り除き肝臓に運ぶ働きがある。
https://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch2-4/keyword4/
中性脂肪
脂質・糖質をもとに、肝臓でつくられる。
中性脂肪(トリグリセリド)は体内の貯蔵エネルギーの大半を占める。食事から過剰に摂取された脂質・糖質は、肝臓などでエネルギー貯蔵物質である中性脂肪に変えられ、脂肪組織などに蓄えられる。
蓄積が過剰になると肥満を引き起こしたり、肝臓に脂肪がたまって脂肪肝をおこしたりする。
肥満の状態では、脂肪組織から血液中にも中性脂肪が放出され、VLDL(超低比重リポ蛋白)の増加につながり、LDLとともに粥状の血管内皮への付着物となって動脈硬化のリスクを高める。
https://kekkan-kenko.com/3minute/3mimute01/
総コレステロール(T-cho)は血液中に含まれるコレステロールの総量を指し、HDLコレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪の1/5の値を合計して算出される。
全てが危険因子となるわけではなく、HDL値はむしろ低い方が脂質異常症のリスクが高く25㎎/dl以下は望ましくないとされ、各疾患の危険領域に入る。
その正常値の目安は40ml/dl~60ml/dlとされている。
治療薬
脂質異常症治療薬はLDLやTG:中性脂肪を低下させる薬。
動脈硬化症の予防、治療を目的とする。
罹患患者数の多さから薬剤の種類は多数ある。
・LDLーC低下作用
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害酵素)
PCSK9阻害薬 (モノクローナル抗体)
MTP阻害薬 (MTPは肝臓や小腸に存在し、超低比重リポタンパク(VLDL)の形成に関与)
レジン(陰イオン交換樹脂)
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
プロブコール
・TG低下+HDLーC上昇作用
フィブラート系薬
ニコチン酸系薬
多価不飽和脂肪酸
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害酵素)
コレステロールを合成する過程で必要な酵素のひとつにHMG-CoA還元酵素がある。
スタチン系薬剤は肝臓において作用。コレステロール合成の律速段階であるHMG-CoA還元酵素を阻害する。
結果、肝細胞内のコレステロールは減少する。
恒常性維持のため、血中のコレステロールが肝臓内に取り込まれる。
結果、血中のコレステロール(主にLDLコレステロール)が減少する。
PCSK9阻害薬
LDL分解に関わるPCSK9蛋白に対するモノクローナル抗体。
PCSK9が過剰に存在すると、LDL受容体(血中を流れるLDLコレステロールに結合し、細胞内へ取り込んで分解するタンパク質)が分解されてしまい、LDLコレステロールが血液中に残りやすくなる。
PCSK9阻害薬は、このPCSK9の働きを阻害することで、LDL受容体の数を増やし、LDLコレステロールを効率的に低下させる。
MTP阻害薬
血液中のLDLコレステロールを増やす要因となるMTP(ミクロソームトリグリセリド転送タンパク質)という物質を阻害することで、LDLコレステロールを低下させる。
MTPは肝臓や小腸に存在し、超低比重リポタンパク(VLDL)の形成に関与。
LDL-C値を低下させる。
chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://iryogakkai.jp/2013-67-12/510-4.pdf
レジン(陰イオン交換樹脂)
胆汁酸の糞便中への排泄を促進。
肝臓と小腸の間で作用。
肝臓で生成されたコレステロールの一部は、胆汁酸として肝臓から胆嚢、そして、大腸に排出され、小腸で再吸収され、再び肝臓に運ばれるが、その過程を阻害する。
イオンを別の種類のイオンに交換する働きを持つ合成樹脂 。
イオン交換樹脂の特性を利用してコレステロールを異化し、小腸での胆汁酸の再吸収を抑制し、便への排泄を促進する。
結果、肝臓のコレステロールが減少。
恒常性維持のため血液中のコレステロールが肝臓に取り込まれて減少する。
https://kusuri-jouhou.com/medi/dyslipidemia/colestimide.html
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
肝臓、小腸間で作用。
胆汁酸はコレステロールを材料として作られる。
胆汁酸の小腸での再吸収を阻害すると、肝臓でのコレステロールからの胆汁酸への変換が促進され、血中コレステロール濃度が低下する。
小腸では食事や胆汁由来のコレステロールが小腸コレステロールトランスポーターという物質の働きによって吸収される。
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬は、小腸におけるコレステロールの吸収を抑え、血液中のコレステロールを低下させる。
エゼチミブは特にLDLコレステロールを低下させる。
プロブコール
肝臓内でコレステロールの胆汁中への異化排泄促進作用と、コレステロール合成の初期段階を抑制する。
これにより、血清コレステロールを低下させる。
LDL受容体を介さず効果を発現する 。
そのため先天性のLDL受容体欠損の場合でも効果がある 。
フィブラート系
肝臓内で作用。
肝臓で特にトリグリセリドの合成を阻害する。
リポ蛋白の代謝を促進しトリグリセリドの分解を促進させて血液中のトリグリセリドを低下させ、HDLコレステロールを増やす。
また、LDLコレステロール(悪玉コレステロールとも呼ばれる)の代謝を促進する作用もあらわす。
ニコチン酸系
肝臓でのVLDL合成抑制、リポ蛋白リパーゼを介しVLDL、TGの水解を促進、それらの値を減少させる。
また、HDLを上昇させる効果がある。
多価不飽和脂肪酸
肝臓内で作用。
植物や魚類などに含まれる。体内で合成できないため、食べ物から摂取する必要がある。
食事から摂取する油(脂質)の多くは、グリセリンと脂肪酸が結合したトリグリセリドという形で存在。
脂肪酸はには飽和脂肪酸と不飽和脂肪がある。
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_wakaru/
飽和脂肪酸の過量な摂取は血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させる一方、不飽和脂肪酸は血液中のLDLコレステロールや中性脂肪を低下させる。
脂溶性であり、食物中の油脂分に溶けた方が吸収されやく、また、胆汁にも溶けやすい。
多価不飽和脂肪酸の服用時期は、食事や食事をとる事で分泌される胆汁に溶けやすいという理由で、食直後が推奨されている。
肝臓におけるLDL合成抑制、TG低下作用をもつ。
抗血小板薬でもあり、血小板凝集抑制作用を持ち、血栓由来の各種疾患への効果もある。
https://www.bee-lab.jp/megumi/dha-epa/index.html
注意点
スタチンとフィブラートは横紋筋融解症について注意する。また併用時には腎機能の低下にも留意する。
特に脱力、筋肉痛、全身倦怠感、こむらがえり、茶褐色尿があれば医師に連絡するようにすすめる。
スタチンは妊娠3か月目までの服用で先天性形態異常の報告がある事に留意する。
レジンは併用薬を吸収するため併用薬の服用は可能な限り1時間~4~6時間の間隔を空ける事が望ましい。
薬剤の成分名:商品名
スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害酵素)
プラバスタチンナトリウム :メバロチン
シンバスタチン:リポバス
フルバスタチンナトリウム :ローコール
アトルバスタチンナトリウム水和物 :リピトール、アトルバスタチン「VTRS」
ピタバスタチンカルシウム水和物:リバロ、ピタバスタチンカルシウム「KOG」
ロバスタチンカルシウム:クレストール、ロスバスタチン「DSEP」、ロスバスタチン
後3剤はストロングスタチンと呼ばれ、LDL-C低下作用がより強力。
PCSK9阻害薬
エボロクマブ:レバーサ 皮下注射
インクリンランナトリウム:レクビオ 皮下注射
MTP阻害薬
ロミタビドメシル酸塩:ジャクスタビッド カプセル
レジン(陰イオン交換樹脂) 胆汁酸の糞中への排泄促進
コレスチラミン:クエストラン
コレスチミド:コレバイン
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬 特にLDL-Cを下げる
エゼチミブ:ゼチーア、エゼミチブ「DSEP」
プロブコール
プロブコール:シンレスタール、ロレルコ
フィブラート系
ベザフィブラート:ベザトールSR
フェノフィブラート:リピディル、トライコア
クロフィブラート : クリノフィブラート「ツルハラ」
ベマフィブラート:パルモディア
ニコチン酸系
トコフェロールニコチン酸エステル :ユベラN 高脂質血症 閉塞性動脈硬化症:末梢動脈疾患(PAD)
ニセリトロール:ベリシッド
ニコモール:コレキサミン
多価不飽和脂肪酸
イコサペント酸エチル(EPA):エパデール、エパデールS、エパデールEM n-3系脂肪酸 抗血小板作用をもつ
末梢動脈疾患(PAD)、冷感改善、高脂血症に用いる。
オメガー3脂肪酸エチル:ロトリガ、オメガー3脂肪酸エステル「武田テバ」 抗血小板作用をもつ
:n-3系(オメガ3系)脂肪酸の一種であるEPA(エイコサペンタエン酸)とDHA(ドコサヘキサエン酸)を主成分とする:高脂血症に用いる。
配合剤
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬+スタチン
エゼミチブ+アトルバスタチンカルシウム水和物:アトーゼット エゼアト
エゼミチブ+ロスバスタチンカルシウム配合:ロスーゼット
エゼミチブ+ピタバスタチンカルシウム水和物:リバゼブ
その他
ガンマオリザノール :ハイゼット
デキストラン硫酸ナトリウム イオウ18:MDSコーワ
エラスターゼES:エラスチーム